鹿児島で考えたコミュニケーションのこと
鹿児島でトークをした。企画をしてくれたのはショップOWLとBAGN(Be a Good Neighbor)、そして相手をしてくれたのは、BAGNの坂口修一郎さん。〈日々是薬膳〉という立ち上がったばかりの薬膳茶のブースが出て和やかな雰囲気のなか、ハードコアに政治の話をもりもりした。ただ私が行って話をしたり、本を売る、というイベントもいいのだけれど、こうやってローカルの人がなにかしているのを見るチャンスがあるのもうれしいことである。
思えば、鹿児島との縁をくれたのも修さん(と呼んでいる)だった。2015年、東京のバーに立っていたとき(帰国するたびに、伊藤総研がマスターを務める「総研バー」に立っていたことがあったのだ)、修さんが夜の深い時間にやってきた。「ジャンボリー(Good Nerighbor Jumboree)に来たほうがいいよ。しょうぶ学園のバンドがヤバいから」。そのしばらく前に、アメリカの媒体からの依頼を受けて、しょうぶ学園の入居者たちが作るクラフトについて、スタッフに電話で話を聞いて原稿にしたことがあり、消化不良な気持ちを抱えて気になっていた場所だった。「YouTubeで見てみる」と言うと、修さんは「見ないで!ナマで見たほうが絶対いいから」と言った。春先のことだったと思う。半年先のスケジュールは当然ガラガラだった。その場でスケジュールに入れて、夏は鹿児島に行くことを決めた。「ニューヨークからわざわざ鹿児島にバンドを見に行く夏休みって、大人になったっぽくっていいな」と思ったことを覚えている。そしてその夏、ジャンボリーに行った。あのときの楽しい気持ち、しょうぶ学園のバンド(というよりオーケストラ)を見たときの衝撃と感動を言葉にすることはいまだにできていない。今もできない。私が言葉を尽くして説明しようとするより、見てもらうことが一番だと思うから。
そうやって修さんのおかげで、鹿児島との縁ができた。翌年のジャンボリーではトークをさせてもらい、その翌年はOWL主催のトークに出た。そして今回は3回目のトークである。
トーク前に修さんと話していたら、修さんはジェーン・バーキンのバックバンドをしていたことがあるという。気に入られてアメリカのツアーにまで行った。それで訪れた場所のほとんどは、トランプ大統領に投票しなかったほうのアメリカだ。「アメリカに憧れていたけれど、憧れていたのはアメリカのカウンターカルチャーだったんだ」と修さんは言った。そんなトーンで話が始まったので、話題はやっぱり政治のことが中心になった。一見、おしゃれなお客さんたちが多いなか、わりと硬派な内容ばかりになったので、お客さんたちが期待してくれたことに添えたか不安になったけれど、トーク後に受けた質問もやっぱり硬派な内容が多くてうれしかった。みんな、世の中がどうやらおかしな方向に進んでいるという懸念を共有しているのだな、と。
最近やっているポッドキャスト「こんにちは未来」を聞いてくれた人からの質問が印象に残った。今日のトークとずいぶんトーンが違いましたね、と言われたので、トークって、話す相手によって毎回感じが変わるんだよね、と答えたあとに、その人は「若林さんとは意見が違うことが多いけれど、意見が違う人と感情的にならずにコミュニケーションをするコツを教えてほしい」と言った。
実際、アメリカに住んでいると常日頃から周りの人間と喧々諤々やっているので、わりと慣れているとは言える。が、日本語だと、政治的に意見の違う人と話をして感情的になってしまうことはないとは言えない(特に呑んでいるとき笑)。最近、友人男子のコミュニケーションを見て、勉強になったことがひとつある。彼は、どんなに偏った意見をぶつけても、一度は「うん」と頷いてくれる。そしてそのあと、彼の意見を言うのである。一度、肯定された気がするから、感情的になる必要もないし、そのあと建設的な議論ができるのだ。今回のツアーをやっていてつくづく思ったのは、人の意見というものは違って当たり前だということだ。だからこそ、話をすることに意味がある。ということで、みなさん、恐れずにどんどん意見のぶつけ合いをしましょう。そういえば、前に、心の友じゃい子と一緒に「非暴力コミュニケーション」のワークショップに行ったことを思い出した。知らない人はぜひ調べてみてほしい。
ところで、修さんは、毎年夏、鹿児島の森の中の廃校で「グッド・ネイバーズ・ジャンボリー」というおまつりを開催している。始めたときにはまわりに大反対されたというジャンボリーも、今年で10年め。いよいよこの場所にコミットするべく、昨年は社団法人リバーバンクを立ち上げた。今年は私も、ブースを出そうと思っている。なんなら毎年出したい。今年8月24日、ジャンボリーでお会いしましょう。
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