マリファナの本を書きました
先日、ニュースのヘッドラインに「ニューヨーク」「大麻」という言葉を見た人も多いと思う。
日本では、メディアや書き手によって「合法化」「非犯罪化」「処罰を緩和」など、表現にバリエーションがあった。実は、ニューヨーク州では、マリファナ(カンナビス)の所持や吸引を、いわゆる犯罪ではなく、立ちションや路上での飲酒と同様に、罰金を課す軽犯罪として扱う「非犯罪化」は、とっくの昔(1977年)に最初の一歩が行われていて、ただ長いこと、NYPDがそれを無視するという時期があり、そこから少しずつ、罰則の内容が変化するという経過を経て、今回は、前科のある人にも適用するなど進化した、そしてアンドリュー・クオモ知事が目指していた完全合法化は成立しなかった、ということなのだが、こういうことが日本のメディアに取り上げられることになったのも最近のことなので、メディアにも、ツイッターなどのソーシャルにも、微妙に間違っている情報が溢れるのを見て、若干、もやもやすることになった。
とはいえ、アメリカの大麻合法化の最前線を追い、また規制の歴史を振り返るルポ本「真面目にマリファナの話をしよう」が8月8日に刊行されるタイミングで、このニュースに注目が集まったことは嬉しいことでもある。
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とはいえ、「なんでまたマリファナ?」と言われることも多いので、なぜこの本を書くことにしたのか、ここに書いておきたい。
そもそも私が渡米した1996年は、カリフォルニア州が医療大麻を合法化することを決めた年だった。日本では「絶対ダメ」と言われていたマリファナの医療的使用!? と頭がはてなマークでいっぱいになったけれど、その背景にはAIDSの蔓延と国の医療の無策があると説明された。そのあと、多くの州がカリフォルニアに続き、医療大麻の使用が徐々に認められるようになった。
時計の針をぐんと進めて、ときは2014年1月。ニュースで、2012年の大統領選挙とともに行われた住民投票で、マリファナの嗜好用使用を合法化することを決めたコロラド州で、マリファナ・ディスペンサリーが成人人口に開放された。それを見て、もしかしたら歴史的なパラダイムシフトが起きているのではないか、と思い、日本から一番に取材する人になりたい!と思った。
とはいえ、まだまだマリファナは日本ではタブーのトピックである。WIRED JAPANの編集長だった若林恵さんに「取材したい!」と言ってみた。最初の反応は、「まあ落ち着け笑」というようなものだったが、『取材したい!したいしたい!」と足をバタバタさせたら、結果的には取材費を捻出してくれ、2015年にコロラドを訪ねて、記事にした。そして、やりたかったことを実行して満足した。
ドキドキした割には、記事が出ても、それほど大した話題にもならず、けれど「やりたいことはやったし、まあいいか」と納得した。そこからしばらく経って、文藝春秋の編集者、曽我麻美子さんからのメールが舞い込んだ。「この記事を拡大させて一冊の本にできないか」と。
文藝春秋がそんな本を出してくれるのか?という懐疑心はさておき、憧れの文藝春秋の「サロン」に入ってみたいミーハー心だけで、会う予定を取り付けた。曽我さんのキャラがおもしろすぎたので、夢中でおしゃべりに興じ、「企画書を出してみますね」という言葉に、「そんな企画通るわけないやーん、期待しないよ〜」と心の中でつぶやきながら、文藝春秋を後にした。
そしたら、通ってしまったのですよ、企画が。
そこから、はて、と後追いで考えた。そんな本を出して、世間様から怒られるのではないかとか、親に心配をかけるのではないかとか、そういうやつ。散々考えた挙げ句、「憧れの文藝春秋から、マリファナというめっちゃ面白い題材についてのルポが出せるというチャンスを断るなんてアホだろう」という結論に達した。それに、アメリカで何が起きているのかを真面目にルポするのに、怒られる必要はないよねっ、と自分を納得させた。
あれから4年も経ってしまった。理由は、他にもいろいろと進行していたプロジェクトがあったこと、センシティブなトピックなだけに慎重に調べるのに時間がかかったこと、その間にマリファナをめぐる状況がどんどん進化して、筆の置きどころがわからなくなったことなどであるが、昨年、「トランプ時代を生きる」をテーマにした日記本「My Little New York Times」が校了してから一気に頑張って書いた。
というわけで、そんな企画がついに本になりました。
ざっくり言うと、「アメリカのマリファナ・バブルの最前線を追う」、「じゃあどうして今まで違法だったんだっけ? 歴史の振り返り」、「医療としてはどうなんだ」というあたりの情報を整理し、まとめたごく真面目なルポ本である。良い、悪いのジャッジが先行しているトピックではありますが、そのジャッジをする前に、まずは情報を知ることは、悪いことじゃないと思うから。
で、本屋に並ぶ前に、少しでも見たいという方のために、数ページですが、ここから立ち読みいただけます。
せっかく一生懸命書いたので、刊行記念イベントをいくつか企画しました。
8月5日:Weed the People 上映会+ #こんにちは未来 公開録音
医療大麻でがんを治療する5人の小児がん患者とその家族の物語を軸に、医療大麻を巡る社会状況や専門家の意見、サポートする人々の姿を描くドキュメンタリー「Weed the people」は、ぜひ多くの方に見てほしいと思ったので、若林恵さんに声をかけて、公開録音とセットのイベントを組みました。ちなみに#こんにちは未来 の公開録音は2度めですが、生でやると二人っきりで録音しているときより盛り上がります。ゲストには、医師の正高佑志さんをお迎えして、医療的な観点から話をしていただきます。
SPBSでは、スライドショーをやります。下手ながらも、取材中にたくさんの写真を撮ったのだが、テキスト中心の本になったので、使われなかった写真も含めていろいろとお見せしつつ、裏話などもしたいと思います。一人でしゃべるの苦手だけど、がんばります。
こちらは、モーリー・ロバートソンさんと。お会いしたことはないのだが、ずっと一方的にお会いしたいと思っていて、出版社を通じてお願いしてみたら、快諾いただけた。どんな話になるのだろう。わくわく。
ちなみに、本が都内の書店に並び始めるのが、おそらく7日か、8日。トークイベントでは、見本誌を販売します(他の本やzineも売ります)。Amazonではすでに予約の受付が始まっていますが、自分のウェブストアでは、サイン入り本の販売をしたいと思っています。
それにしても、書き下ろしは辛い。連載をまとめるのも辛い。書くって辛いね。とりあえずここまで来れたことに感謝である。