タブロイドに対する抗議運動
先週末起きた醜いことのひとつに、ニューヨーク・ポストが、911の写真とともに、ミネソタ州のイハン・オマール下院議員の言葉を、カバーにしたことがあった。
この表紙を私は、山の家の近くのデリの新聞売り場で見た。見た瞬間に吐きそうになった。とっさに思ったのは「You can’t do that」ということだった。
ニューヨークの大手新聞といえば、ニューヨーク・タイムズとウォール・ストリート・ジャーナルがあって、その下に「タブロイド」と言われる2紙がある。左派の労働者たちを代表するニューヨーク・デイリー・ニュースと、右派のタブロイド、ニューヨーク・ポストである。そして、ニューヨーク・ポストは、触るのも嫌なゴミとしか言えない。
オマール下院議員は、昨年11月に行われた下院議員選挙から生まれたスターの一人である。ソマリア難民としてアメリカに来て、敬虔なイスラム教徒であり、女性でもありながら、体制の矛盾を指摘する彼女の姿は、新しいイスラム女性像をアメリカに見せて、ニューヨークのアレキサンドラ・オカシオ・コルテスとともに、下院に新しい風を巻き起こした。
そして大いに予想できたことながら、白人保守層の攻撃を浴びている。彼女の過去のスピーチの「誰かが何かをやった」という言葉が、文脈から切り取られて、右派のアンチ・イスラム主義の発信に使われている。
20年前のアメリカ・メディアだったら、元難民、イスラム教徒で女性、という政治家を、根拠なく未曾有のテロに結びつけることなどできなかったはずだ。けれど、今ならできる。オーストラリアの右派だったルパート・マードックが、世界中のタブロイド紙を買い占め、またフォックスニュースを使って、右派や保守派の政治家を「堂々と」応援するようになった20年が経った今なら、こういう嘘の報道を止めることはできなくなった。できることは「You can’t do that」とつぶやくぐらいだ。
と思ったら、イエメン系のデリの組合が、ポストをボイコットしたという。よく「アラブ系」とゆるくカテゴライズされる種類のデリがあって、そのかなりの数がイエメン系である。新聞、アルコール、タバコ、スナックといったベーシックな物を扱う24時間経営のやつだ。ネイルサロンや生鮮食品も扱うデリに韓国系が多いように、どういうわけかタバコ系のデリはイエメン系が多いのだ。よし、私も応援しよう。もともとポストなんて大嫌いだけれど、今週は、ベーシックな物はイエメン系デリで買うことにした。がんばれ。
備忘録:911の写真とイハン・オマルの言葉でインスパイアされた反ニューヨーク・ポスト抗議運動(The New York Times)