Yumiko Sakuma

ミネアポリスとイルハン・オマーのこと

Yumiko Sakuma
ミネアポリスとイルハン・オマーのこと

ファーゴからミネソタ州を通過して、ウィスコンシンに入る。

旅の友がぎっくり腰なために自分が運転するほうが楽だというので、自分はずっと助手席に座っている。ずっと原稿を書いていると酔うので、微調整をしながらずっとニュースを読むような展開になる。

この旅の最中に#trumprecessionがツイッターのトレンドになっていた。中国との関税問題による負荷が大きくなる一方で、解決策は見えない。就任してすぐにやった大型減税も、景気を加速させる結果にはならなかった。ついにトランプの支持率に陰りが見えてきた。つい最近まで強大なロビイング団体として、トランプに強固な支持を提供していたNRA(全米ライフル協会)は、ここしばらく内輪もめがニュースになっていたが、組織内も混乱しており、これまで見せてきた統率のとれたPR戦略に乗り出すだけの団結力がないのだという。エルパソ、デイトンと続いた銃乱射事件が起き、議会に銃規制への圧力が高まっている。共和党には、NRAから多額の献金を受け取って、銃規制に反対し続ける議員が多数いるが、NRA自体が骨抜きになっている間だったら、銃規制が可能かもしれないという希望が漂っている。トランプとNRAから献金をもらっている議員たちは、メンタルヘルス対策の強化に議論をシフトしようとしている。

いつものアメリカ一周旅と違って、今回は、旅のケツが決まっている。ミネソタ州を北西から南東に走りながら、今回寄ることのできないミネアポリスに思いを馳せる。一度、ミネアポリスの男と短い恋愛をしたことがあった、彼のおかげで、友達が何人もできた。私の知るミネアポリスは、パンクやアナーキズムが好きで、ちょっぴりトラッシーでプログレッシブな街だ。プリンスの故郷であり、ソマリアからティーンエージャーのときに、難民としてアメリカにやってきたイルマン・オマーを下院議員に選出した都市でもある。

イルマン・オマーは、ニューヨークのアレクサンドラ・オカシオ・コルテス、ミシガン州デトロイトのラシーダ・トライブ、マサチューセッツ州ボストンのアヤナ・プレスリーとともに「ザ・スクワッド」の一人である。前回の中間選挙で下院議員に選出された新米議員のなかでも、もっともプログレッシブで、政治の都合を無視する人たちである。イスラム教徒、女性、難民であり、弁が立ち、カリスマ性の高いオマーを、保守は驚異に感じているのだろう。トランプは、ツイッターで、兄と近親相姦関係にあるという保守派が作った嘘を撒き散らしたり、悪意を持って編集したビデオを拡散したりしてきた。

それを日本で見て、ゾワゾワっとしていたところだった。オマーの安全を危惧する、というツイートを何度も見た。急進的な反イスラム派や白人至上主義者は恐ろしいのである。

こんな恐ろしい状況の中、舌鋒を緩めないオマーの勇気には脱帽するしかないが、それは彼女の出自とは無関係ではないと思う。内戦中に、家族でソマリアを逃れ、ケニアの難民キャンプで何年かを過ごした。難民ビザでアメリカに入国し、バージニアで数年を過ごした後に、家族でミネアポリスに落ち着いた。17歳で米国籍を取り、ノースダコタの大学に行き、ミネアポリスに戻ってからは、移民やマイノリティの女性たちのためのコミュニティ活動の職に就いた。子供の頃にはいじめに遭い、たくさんの局面で、偏見や罵詈雑言に晒されてきた。

その騒ぎのあとに、ミネアポリス空港に戻ったオマーを出迎える群衆の映像を見て、アメリカの美しさの一面を見た。国政の場でレイシストの大統領に攻撃されてきて戻ってきた議員に愛を伝えるために集まった人たちの姿を見て、そうだった、と思ったのであった。

今晩は、私営のキャンプ場にキャビンを借りて泊まった。ラティーノも、白人も、黒人もいた。誰もが目が合えば挨拶をしあうような場所だ。こういう場所と、前日泊まったような場所との分断はきっとどんどん大きくなっている。自分がどういう気持ちを持ってどういう社会に生きたいのか、毎日、問いを与えられている気がする。

備忘録:イルハン・オマン、ミネアポリスに帰郷して英雄としての歓迎を受ける(The New York Times)